白色雑音の電力は無限大です

白色雑音は,「電力密度(帯域幅1Hzあたりの電力)が周波数によらず一定の雑音」である. 全電力は,電力密度と\(\pm\infty \)の(無限の)帯域幅の積,つまり無限大である. 電力無限大の信号が,我々の身近に存在しない(もし存在すればエネルギ問題解決? でもそれ以前に,とても物騒!)白色雑音は,あくまで想像上の産物,仮定された存在である.

なぜ白色雑音を仮定するのか.たとえば,特定の周波数範囲を切り出すフィルタの出力において,雑音の電力密度スペクトルがフィルタの帯域幅内で一定であることは,現実的にみられる現象である.このような場合,フィルタの入力側に全周波数において一定の雑音が存在すると仮定すると数学的記述が容易になる. 実際には,そのフィルタ帯域幅の周辺にだけ雑音が存在するのであっても.

白色雑音の自己相関関数

白色雑音は,電力スペクトル密度は一定で,平均が零である不規則信号である. ここで,雑音の(両側)電力密度を定数\(N_0/2\)とする. 電力スペクトル密度は,自己相関関数のフーリエ変換として定義できる. 従って,雑音の自己相関関数\( R(\tau,\ t) \)は, \(\tau\)についてフーリエ変換して定数となる関数, すなわちデルタ関数により以下のように表現できる. \[ R(\tau,\ t) = \langle n(t)n(t+\tau) \rangle =\frac{N_0}{2}\delta(\tau) \tag{1} \] となる.但し\(n(t)\)は雑音の見本関数であり,また\( \langle \cdot \rangle \)は集合平均(期待値)を表すことにする.

白色雑音のサンプリング

見本関数\(n(t)\)の雑音が電力スペクトル密度\(N_0/2\)の白色雑音とする. このとき,この雑音のサンプル値(積分値)を以下のように定義する. \[ n_{\alpha} =\int_{\alpha}^{\alpha T} n(t) dt \tag{2} \]

このとき, \[ \langle n_{\alpha}\rangle =\int_{\alpha}^{\alpha T} \langle n(t) \rangle dt = 0 \tag{3} \] である.つまり白色雑音のサンプル値の集合平均(期待値)は零である.

また \begin{align} \langle n_\alpha n_\beta\rangle =& \int_{\alpha}^{\alpha T}\int_{\beta}^{\beta T} \langle n(t)n(t') \rangle dtdt' \tag{4a}\\ =& \int_{\alpha}^{\alpha T}\int_{\beta}^{\beta T} \frac{N_0}{2}\delta(\tau) dtdt' \tag{4b} \end{align} である.

ここで,区間\( [\alpha,\ \alpha+T] \)と,区間\( [\beta,\ \beta+T] \)が重ならないなら 常に\( t \neq t' \)であるので,\( \langle n_\alpha n_\beta \rangle = 0 \)となる.

逆に,\( [\alpha,\ \alpha+T] = [\beta,\ \beta+T] \),つまり\( \alpha=\beta \)ならば, \begin{align} \langle n_\alpha^2 \rangle =& \int_{\alpha}^{\alpha T} \int_{\alpha}^{\alpha T}\frac{N_0}{2}\delta(\tau) \ dtdt' \tag{5a}\\ =& \int_{\alpha}^{\alpha T} \frac{N_0}{2}\delta(0) dt \tag{5b}\\ =& \frac{N_0T}{2} \tag{5c} \end{align} である.つまり時間区間\(T\)だけ白色雑音\( n(t) \)を積分して得られる 雑音のサンプルの分散(電力)は\( N_0T/2 \)である. なお,サンプル区間が一部重なる場合については,読者の自習に任せる.

(2021.08.04)(2021.12.16改訂)