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著者 表 英毅
題目 非地上系ネットワークを対象とした電波伝搬測定と国際標準電波伝搬モデルの構築
出典 博士論文
要約 本論文では, 第一に HAPS で想定される電波伝搬環境に対する電波伝搬特性 の解明を目的として, ヘリコプター等の模擬成層圏環境や実際の成層圏環境か らの電波伝搬損失特性を複数のエリアで実施し, 植生による電波伝搬損失に対 する電波伝搬モデルの対象エリアの拡張, 市街地や郊外地における地物による クラッター損失に対する電波伝搬モデルの開発, 屋外から屋内へ電波が侵入す る場合の屋内侵入損失に対する電波伝搬モデルの開発および高仰角に対応した 人体遮蔽損失に対する電波伝搬モデルの開発を実施した. 第二に一部の特性について HAPS を対象として開発した電波伝搬モデルを他 の NTN へも適用できるように拡張を図ることを目的とし, 新たな環境で追加測 定を実施して, 新たなクラッター損失モデルとサイトスペシフィックな屋内侵 入損失モデルを開発した. 1 章では, 本研究の背景として NTN, HAPS, そして HAPS 対応電波伝搬モデ ルの開発と国際標準化が必要な背景について述べた. さらに, HAPS 対応電波伝 搬モデルの国際標準化の過程で開発した電波伝搬モデルの一部が HAPS だけで なく他の NTN にも適用できるよう拡張するに至った経緯を述べた. 2 章では, HAPS に必要な電波伝搬特性と電波伝搬モデルについて述べた. 3 章では, HAPS 対応電波伝搬モデルの解明について述べた. また, 著者が開 発した各環境における電波伝搬モデルについて述べた. クラッター損失につい ては, 成層圏環境を含む様々な環境における 0.7, 1.5, 3.3, 5.7GHz を用いた測定 結果に基づき, 既存のモデルでは適用範囲外である 10GHz 以下の周波数に対応 し, 見通し率と遮蔽建物高を考慮した新しいクラッター損失モデルを開発した. また, 提案モデルは様々な環境に対して有効であること示した. 本研究の成果 により, 既存の勧告や先行研究では対応していない HAPS の高度と HAPS のサ ービスリンク向け周波数(表 1.4 参照)に対して, 干渉検討に向けた伝搬推定を行 うことが可能となった. 屋内侵入損失については, システムデザイン用電波伝搬モデルとして, より 詳細なパラメータに対応した屋外から屋内へのサイトスペシフィックな侵入損失モデルを作成するために, 電波伝搬測定を実施し, その解析結果から, 仰角や 屋内侵距離に加えて, 屋内の部屋の横幅や, 屋内で透過する壁の枚数も電波伝 搬損失に影響を与えることを特定した. 本研究の成果により, 詳細な計算が必 要となる「システムデザイン用電波伝搬モデル」として 4 章に記載した屋内侵 入損失モデルの開発が可能となった. 植生損失については, 異なるエリア, 異なる季節で電波伝搬測定を実施して ITU-R 勧告 P.833-9 を基に新たな植生損失モデルを開発した. このモデルは ITU-R 勧告 P.833-9 には定義されていない季節も特定して推定を行うことがで きる. 本研究の成果により, 既存勧告や先行研究では対応していない異なる地 域に対して同一の関数(推定式)で季節を考慮した植生損失の推定が可能とな った. 人体遮蔽損失については, まず, 人体を模擬したファントムを用いて, 到来パ スが一つである場合の基本的な人体遮蔽損失を測定した. 基本的な人体遮蔽損 失は, 主に LOS 環境等が対象となる. 次に, 都市部や住宅地などのマルチパス がある環境を対象とした人体遮蔽損失モデルを開発するために, 実環境におい て電波の垂直及び水平方向の到来角度特性を測定した. この測定結果を, 基本 的な人体遮蔽損失と重畳することでマルチパスがある場合の人体遮蔽損失モデ ルを開発した. 本研究の成果により, 先行研究では対応していない上空からの パスに対する人体遮蔽損失推定と人体周辺の環境に応じて様々な方向から到来 するマルチパスに対応した人体遮蔽損失を推定することが可能となった. 4 章では, HAPS だけではなく他の NTN への適用を目的とした一部の電波伝 搬モデルの拡張について述べた. クラッター損失モデルについては, 10GHz 以下を対象とした HAPS 対応クラッ ター損失モデルを拡張することを目的として, 29.3GHz での追加測定と地上局高 が遮蔽建物高よりも低い場合から高い場合まで含めた環境における追加測定を 実施し HAPS 以外の NTN に対応した新たなモデルを開発した. 本研究の成果に より, 既存勧告では考慮していない都市構造を考慮することで既存勧告より高 精度に HAPS だけではなく他の NTN の干渉検討に向けたクラッター損失推定を 行うことが可能となった. また, 本成果は先行研究でも対応していないもので ある. 屋内侵入損失については, 29.3GHz で実施した新たな測定結果を解析し, HAPS だけではなく他の NTN へも対応し, 詳細なエリア設計にも適用できる新たなサ イトスペシフィックモデルを開発した. このモデルは, 上空からのパスだけではなく地上からのパスにも適用できる. 本研究の成果により, 既存勧告や先行 研究では対応していない屋内侵入損失に影響を与えるすべてのパラメータに対 応した詳細な屋内侵入損失推定が可能となった. 以上に述べたように, 第 3 章では HAPS のサービスリンク向け周波数に対応 した各電波伝搬環境における電波伝搬モデルを開発した. また, 第 4 章では第 3 章で開発した電波伝搬モデルの一部を他の NTN にも対応できるように発展させ た. これらの成果は, 単に学術的な成果だけではなく, ITU-R 勧告として国際標 準として採用された. 具体的には, HAPS 電波伝搬モデルの ITU-R 勧告 P.1409-1 の改訂に向けた国際標準化活動を実施した. ITU-R 勧告 P.1409-1 に既に含まれて いる電波伝搬環境と含まれていない電波伝搬環境を整理して, 含まれている電 波伝搬環境に対してはその適用方法を明確化すると共に, 含まれていない環境 として著者が開発した各環境における電波伝搬モデルを ITU-R 勧告 P.1409-1 及 びその関連勧告に追加・改訂するための国際標準化活動を実施し, 干渉検討用電 波伝搬モデルの国際標準化を達成した. この国際標準化の達成は, HAPSの事業展開を目指す世界の事業者にとって大 きな一歩である. 具体的には, HAPS の商用化を目指している世界各国の事業者 は, この電波伝搬モデルを活用することで, 電波干渉の影響などを踏まえ, 既存 の無線通信システムとの周波数の共用・共存の検討や, HAPSを活用した無線通 信システムの設計を効果的に行うことができるようになった. この国際標準化 の経緯は ITU-R の構成とともに Appenndix にまとめている.
Authors H. Omote
Title Radiowave propagation measurements for non-terrestrial networks and construction of international standard radiowave propagation models
Authority doctoral thesis
Summary
年月 2023年9月
DOI/Handle
研究テーマ 4G/5G/次世代移動体通信システム
言語 日本語
原稿/プレゼン資料 / (ローカル限定)


山里研究室/岡田研究室 研究業績データベースシステム