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著者 長縄潤
題目 優先信号存在下での一方的協力中継を伴う周波数重畳通信方式に関する研究
出典 博士論文
要約  これまでの周波数帯域の割り当ては原則として排他的なものであり,無線通信の需要拡大に対し新規割り当て可能な周波数帯域の空きが逼迫している.これに対し周波数重畳通信では,複数の異なる通信システムを単一の周波数帯域に割り当て,同時に通信を行う.周波数帯域を複数の通信システムで使用させることによって,更なる無線通信の需要拡大に応えることが可能となることから,その研究開発が推進されている.  無線通信においては,共通の空間を通信路として用いるため,周波数重畳通信を行うと相互に干渉が発生する.そのため,既存の通信システムに割り当てされている周波数帯域を周波数重畳通信により別のシステムが利用しようとする場合,その周波数帯域を新たに利用するシステムは,既存システムの通信を優先し,二次的に周波数帯域を利用する.このような優先信号存在下での周波数重畳通信においては,優先システムは周波数重畳に際して何も行わず,追加された二次システムだけが優先システムへ与える干渉を抑える必要がある.従来研究では,二次システムは優先システム信号の電力を観測し,それよりも十分低い電力で送信することで,優先システムに与える干渉を抑えていた.通信品質と通信電力には密接な関係があり,低電力で通信するということは,二次システムの通信品質劣化を意味する.これに対し,優先システム自体の品質改善を図り,信号電力を増大させることが出来れば,二次システムの通信品質を改善することが可能である.  本論文では,優先信号存在下での周波数重畳通信を実現するために,優先システムに悪影響や変更を与えることなく,二次システムの品質改善を目指している.そのために,優先信号の品質向上に着目し,優先システムの通信に対して一方的に協力中継を行う方式の検討を行った. 一方的協力中継では,二次システム送信機が優先信号の中継を行うことで,優先システムの通信に対して協力を行う.上述のように優先システムは周波数重畳に際してなんら配慮することはないため,二次システムからのみの一方的な協力関係である.二次システムは,協力中継した優先信号に自身の信号を重畳する.すると,二次システム送信機が自身の信号のみを送信し,空間上で優先信号に重畳される場合と比べ,優先信号の電力が大きくなり,それに比例して二次信号電力も増大させることが可能となる.以上のような一方的協力中継を伴う周波数重畳通信のフレームワークについては情報理論に基づく検討が行われていたが,実際の通信を考慮した検討は未だ行われていない.  本論文では,優先信号存在下での一方的協力中継を伴う周波数重畳通信方式について,従来研究では行われていなかった無線通信理論に基づいた二次システム送受信機の設計に取り組んだ.また,理論的な解析だけでなく実用面を考慮し,変調方式や通信路環境を考慮した特性評価を行った.  まず,本論文前半では,一方的協力中継を実現する提案二次システムの構築に取り組んだ.第2章では,提案方式の中核となる優先信号の一方的協力中継の効果について述べた.提案システムを評価するシステムモデルについて,想定する通信路と優先システム送受信機について述べるとともに,二次システム送受信機の構成について検討した.二次システム送信機については,優先信号の中継方法として,信号を一旦復調・判定後に再送信する「再生中継」と,信号を増幅してそのまま再送信する「非再生中継」の2通りについて述べた.また,二次システム受信機において,優先信号の除去手法として,受信信号から優先信号を推定し,推定結果に基づいて受信信号から干渉成分を引き去る「逐次型干渉除去」について述べた.  第3章では,提案方式の特性を解析的に導出し,数値例による評価を行った.まず,優先システム受信機における提案方式の特性について,周波数重畳通信を行わない場合,すなわち優先システムのみが周波数帯域を単独で独占的に使用している場合と比較した.解析においては,中継された優先信号と優先システム送信機から直接届く優先信号という2種類の優先信号が受信されることから,受信機においてどのように復調されるかを考慮して特性を求めた.その結果,二次システム送信機が再生中継を用いる場合に,優先システムの特性を悪化させずに二次システム信号の重畳が可能であることを示した.一方,非再生中継を用いる場合には,優先システムの特性が悪化してしまうことを示した.次に,二次システム受信機における提案方式の特性について,二次システムのみが周波数帯域を単独で独占的に使用できる,理想的な場合と比較した.その結果,再生中継を用い,優先システム受信機では特性が悪化していない場合において,二次システム受信機においても単独通信時と比較して若干の損失のみで通信が可能であることを示した.  第4章では,第3章の検討を踏まえ,二次システムの受信特性改善に取り組んだ.二次システム受信機で加わる最も大きな干渉は再生中継された優先信号であり,これを逐次型干渉除去器により除去しているが,この信号は二次システム送信機が再生中継している以上,既知の情報である.そこで,二次システム送信機において中継された優先信号の信号点配置を考慮し,二次システム受信機側における干渉の影響が最も小さくなるように二次信号の信号点配置を可変する手法を提案した.そして,第3章と同様に解析的に導出した数値例により評価を行い,二次システムの受信特性を改善でき,単独通信時とほぼ同等の品質が得られることを示した.以上の検討から,周波数重畳通信において優先信号の中継を行うことで,優先システムの特性を悪化させないだけでなく, 自身の通信においても特性改善に生かせることを示した.  本論文後半では,優先信号存在下での一方的協力中継を伴う周波数重畳通信方式について,想定環境を拡張して評価を行った.第5章では,直交周波数分割多重(OFDM)変調を適用した場合における提案方式の特性を評価した.OFDM変調は複数のサブキャリア周波数に情報を乗せるマルチキャリア変調の一種である.本論文前半で用いたシングルキャリア変調と比べ,周波数利用効率が高く,大容量通信が比較的容易であるという特徴がある.そして,地上TV放送や無線LANなど現代の高速な無線通信では広く用いられており,本論文が想定している優先システムでも使用されている可能性が高い.一方,提案方式を用いると中継された優先信号と優先システム送信機から直接届く優先信号の2種類が受信されるが,一方に合わせて復調されることで,もう一方の信号の直交性が崩れ,シングルキャリア変調の場合よりも大きい干渉となり,特性劣化の可能性もある.本章では,両システム送受信機の構成をOFDM変調に拡張した場合について,各受信機での受信特性を求めた.そして,シングルキャリア変調の場合と比較して,優先システムの特性を悪化させないようにするための制約が厳しくなるものの,優先システムの特性を悪化させずに,二次システム受信機でも単独通信時とほぼ同等の品質が得られることを示した.  第6章では提案方式における無線通信路の影響について評価した.無線通信においては,通信路の伝播環境の変動により受信特性が悪化する.屋内で用いる無線LANのように,送受信機に障害物がなく近距離であれば余り影響はないが,屋外で送信されている地上TV放送のように,送受信機に障害物があり長距離の場合は大きな影響が起こる.また,第5章と同様に,通信路変動により干渉の影響が増大する可能性がある.そこで,優先システムとしてOFDM変調を用い,「周波数選択性フェージング」と呼ばれる通信路変動が起こっている環境を想定し,提案方式の評価を行った.その結果,通信路変動がない第5章と比較して提案方式が有効となる条件は厳しくはなるが,それでも優先システムの受信特性を悪化させずに,二次システムも若干の損失のみで通信できることを示した.  本論文では優先信号存在下での周波数重畳通信における二次システムの通信品質向上を目指して検討を行ってきた.そして,優先信号の一方的協力中継により,変調方式や通信路環境によって差があるものの,優先システムの受信特性を悪化させることなく,二次システムも単独通信時とほぼ同等の受信特性が得られることを示した.周波数重畳通信は今後の無線通信を支える基幹技術になりうるものであり,理論面だけでなく個々のアプリケーションに沿った更なる発展が望まれる.本論文の取り組みは,優先システム環境に変化を与えないように配慮する取り組みが多い従来の周波数重畳通信方式の研究の中で,新たな観点を示したものと言える.
Authors J. Naganawa
Title A Study on the Overlay Communication System with Unilateral Cooperative Relay Transmission
Authority doctoral thesis
Summary
年月 2014年7月
DOI/Handle
研究テーマ ソフトウェア無線通信システム
言語 日本語
原稿/プレゼン資料 / (ローカル限定)


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